■事例紹介:名古屋鉄道株式会社名鉄瀬戸線の駅構内で展開されている「MEITETSU ART GALLERY」。鉄道会社である名鉄がなぜアートという異分野に取り組むのか。その背景や狙いを、ギャラリープラットフォームサービス「HACKK TAG」を運営する株式会社IDEABLE WORKS代表の寺本が事業創造部の佐藤 諒氏に伺いました。■担当者プロフィール佐藤 諒(さとう・りょう)さん名古屋鉄道株式会社 事業創造部所属。2013年入社。財務、新規事業開発などを経て、2024年より事業創造部にてアート関連事業を担当。現在は、瀬戸線沿線の価値向上と連動したアートプロジェクトを推進中。なごやまちなか実証での出会いQ:鉄道会社である名鉄がアートに注力されている点に、興味を持つ方も多いと思います。プロジェクト開始の背景をお聞かせいただけますか名鉄グループでは、2023年ごろから瀬戸線沿線の価値向上に向けた議論を社内で進めてきました。同時期に名古屋市が主催するスタートアップ支援事業なごやまちなか実証 「NAGOYA CITY LAB」に実証フィールド事業者として参画させていただき、社会課題解決を目的として瀬戸線をスタートアップ企業のソリューションを集める舞台に設定したことがきっかけです。ありがたいことに多数のスタートアップ企業から応募がある中、「発表の場を求めるアーティストにその機会を提供する」というIDEABLE WORKSの理念や想いに共感し、鉄道会社のアセットを用いればその社会課題に応えられると考え、実証実験として瀬戸線×アートのプロジェクトを立ち上げることになりました。↑(左)当時の栄町駅での展示の様子(右)上位作品の車両内掲示の様子参考)実証プロジェクトでの取り組みの様子はコチラ→実証プロジェクト | なごやまちなか実証「NAGOYA CITY LAB」Q:プロジェクトの舞台に「瀬戸線」を選んだのは、どんな理由からですか瀬戸線は、他の名鉄路線と接続していない独立した線区で、他路線との乗り入れもないため、比較的自由度が高く、実験的な試みに適していました。さらに、「ちょっといいまち」をコンセプトに地域の魅力を再発見し、住みたい・訪れたい沿線づくりを目指す「瀬戸線沿線価値向上プロジェクト」もスタート。アートはその文脈においても非常に親和性が高いと感じました。↑実証プロジェクトでの入賞作品をデザインした記念乗車券アートが社内外のつながりを生むQ:社内では、鉄道とアートの組み合わせにどのような反応がありましたか瀬戸線をフィールドとした実証実験の対象として「アートが一番面白そう」と直感的には思っていたものの、鉄道会社としてあまり例の無い取り組みでもあったため「アートプロジェクトが本当に瀬戸線沿線価値向上につながるのか」などの声が社内でも聞かれました。一方で「駅空間に彩りが加わることで、沿線利用者の心が少しでも和らぐのではないか」「地域の方々や沿線利用者との接点になるのでは」という意見もあり、自然と賛同が広がって行きました。プロジェクトを進める中で、徐々に他部署との連携や応援の輪が広がり、今ではアートが社内のコミュニケーションのハブのような存在になってきたと感じています。また、地域の方やアーティストとのつながりも増え、アートが社内外を横断する“コミュニティの媒介”として機能し始めている実感があります。アートって、「ワクワクする」と共感してくれる人が社内外問わず多く、そんな共通の感情が新たな関係性を生み出す力になっていると思います。Q:ギャラリー設置によって、どのような変化がありましたか駅構内に“良い意味での異質さ”が生まれました。また、当初の展示方法からギャラリーとしての視認性をさらに高めるため、2024年2月に展示スペースをリニューアルしたことで、より「ギャラリーらしさ」を演出できるようになりました。展示を立ち止まって眺めてくださる方が徐々に増えてきており、日々の通勤・通学のなかで、少しでも心が和むような瞬間を提供できていれば嬉しいですね。↑瀬戸線大曽根駅に設置中のMEITETSU ART GALLERYQ:ギャラリーを運営していて良かったことはありますか最初の実証期間中に取材でメディアの方々に来ていただいた際、「ゆめを」さんという1人のアーティストのエピソードに注目が集まりました。ゆめをさんは、中学生の頃に不登校を経験されていて、当時の作品を描き直して展示企画にエントリーしてくださいました。結果、見事展示が決まり、絵が展示されたことで「自分自身を肯定できるきっかけになった」と話してくださいました。ゆめをさんのプロフィールこのような話をアーティストの方から聞けると、ギャラリーを運営していて本当に良かったなと思います。IDEABLE WORKSとの協業についてQ:どうして実証実験後も協業を継続していただいているのでしょうか第一に、作品を展示したいというアーティストの皆さんのニーズが、実際に存在しているということが大きいです。そのニーズに応えることができ、喜ばれるという実感があります。また、展示自体が駅の遊休スペースを有効活用でき、鉄道業務に支障をきたすこともない点もポイントかなと思います。さらに、IDEABLE WORKSのご提案は毎回丁寧で、展示場所の特性や導線を踏まえてくださります。「名鉄にとっても意味のある取り組みに」という視点を常に持ってくださるので、パートナーとしても心強く、協業を継続したいという気持ちになります。↑褒めてもらえて嬉しそうな寺本(右)瀬戸線が持つ、アートとの親和性Q:アーティストの皆さんへ、瀬戸線沿線での展示の魅力を伝えてもらえますか瀬戸線は名古屋市、尾張旭市、瀬戸市の3市を結ぶ路線で、名古屋市中心部の栄と「せともの」の街・瀬戸市を結ぶ文化的な特徴があります。沿線には大学や、白壁エリアといった高級住宅街のほか、瀬戸市は藤井聡太さんの出身地でもあり、瀬戸線では「将棋とれいん」(ラッピングトレイン)を走らせた実績があります。尾張旭市には日本紅茶協会認定の「おいしい紅茶の店」が人口比で店舗数日本一というユニークな地域性もあります。そうした魅力を題材にしたり、もっと地域イベントと連動したりすることで、より深みのあるプロジェクトになり、アーティストの皆さんにも魅力を感じてもらいやすくなるかと思っています。Q:今後、注目している展開はありますか2025年に開催される「国際芸術祭あいち2025」は、栄の愛知芸術文化センターと瀬戸市のまちなかや愛知県陶磁美術館が会場となります。つまり、瀬戸線の両端が会場になる絶好の機会です。MEITETSU ART GALLERYの立ち上げ当初から、芸術祭との連携は視野に入れており、「やらない理由がない」と感じていました。芸術祭と連動したアートコンテストなどの企画を現在計画中です。MEITETSU ART GALLERYは誰にでも開かれた場Q:最後に、アーティストの皆さんへメッセージをお願いしますMEITETSU ART GALLERYは、どなたでも挑戦できる「開かれた場」でありたいと思っています。展示経験の有無や年齢に関係なく、ぜひエントリーしていただきたいです。通勤中の方や学生、家族連れなど、普段アートに触れないような方にも作品を届けることができる機会をこれからも名鉄として提供できるようにチャレンジしていきます。将来、「名鉄の駅での展示が、自分のアーティストとしての原点だった」と語っていただけるような場に育てていければと願っています。↑名鉄アートギャラリー前で最後にパシャリ。取材受入ありがとうございました!